愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「いいね。買ってあげるよ。なに?」

「きのこの栽培キットです」

しいたけやマイタケ、なめこにしめじにマッシュルーム、自宅で菌床からきのこを育てるキットが販売されているそうで、その話は三年前にエアコン掃除の依頼で来店した客に聞いた。

食べるだけならきのこを買った方が安いので諦めたのだが、スーパーマーケットできのこを見るたびに自分で育ててみたいと密かに憧れていたのだ。

朝陽が呆気に取られたような顔をする。

「本当にそれが欲しいの?」

「はい。にょきにょきと日々大きくなるきのこを観察してみたいです。自分で育てたら、より美味しく感じられると思います。生産者の方の思いもわかるかもしれません」

「成美は本当に真面目だな」

(きのこ栽培は真面目なの?)

プッと吹き出されて、成美は恥ずかしさに赤くなる。

「面白みのない人間ですみません」

「いや、すごく面白い。成美らしいのに、予想外だった。全種類のきのこ栽培キットを買おう。俺も一緒に育てたい」

朝陽はまだ笑っていて、続きが食べられないようだ。

(楽しませた? ううん、笑われたのよね)

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