愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
夫用にはリンゴを切ってコーンフレークを用意し、ふたりの朝食をダイニングテーブルに並べたら、時刻は六時半になる。

(大変、始まってしまう)

エプロンを脱いだ成美は家具を置いていないスペースまで移動して、携帯電話で小さくラジオをかける。

軽快な音楽が流れ、始まったのはラジオ体操だ。

これも子供の頃からの習慣で、両親と一緒に毎朝欠かさず続けてきた。

きっと今頃、実家でも父と母がラジオを前にスタンバイしているだろう。

ハワイで約束した通り、父は半月ほど前に母のもとに帰って謝罪をした。

なにも知らなかった母は驚いてから十年間の音信不通について文句をぶつけ、その後には『おかえりなさい』と涙して無事の帰りを喜んだそうだ。

先週は借金を完済してくれた朝陽にお礼を言いに、夫婦揃ってこの家にやってきた。

父の再就職先は警備会社に決まったそうで、やっと安心して暮らせるようになり、成美も肩の荷を下ろせたような心境だ。

なにもかも夫のおかげである。

元気にラジオ体操する両親を思い浮かべながら、成美はリズムに合わせて上体を反らし、腕を振って屈伸する。

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