愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
昨日、急な出張が入った朝陽は『帰宅予定は明日の十七時頃』と言って出かけたので、間もなく帰ってくるだろう。

(そろそろ夕食の支度を始めよう)

テラスに繋がる大きな窓ガラスを拭き終え、掃除道具を片づけて手を洗った。

仕事のない週末も成美は忙しい。

部屋数が多く広いこの住まいを清潔に保つには、土日に念入りに掃除をしなければならなかった。

ロボット掃除機が助けてくれても、階段や窓、玄関に水回りと、手作業での掃除が省かれるわけではない。

夫が働いているのに妻だけ休んでいるわけにいかないという思いもあって、朝から動きっぱなしで疲れていた。

しかし朝陽の顔を思い浮かべれば自然と頬が緩み、ひと息入れずに料理用のエプロンを着る。

(妻として、美味しい夕食を作らないと)

まな板と包丁、鍋を出し、冷蔵庫を開けたら「ただいま」と声がした。

仕事用の黒い鞄と大きな紙袋を両手に提げた夫がリビングに入ってきた。

成美は慌ててキッチンから出て駆け寄る。

「おかえりなさい。バタバタしていたので物音に気づきませんでした。すみません」

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