愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
妻の癒しと母の執着
朝七時四十五分、朝陽は広いウォークインクローゼットのある自室で出社の準備をしている。

三つ揃えのネイビースーツは国内ブランドのオーダーメイドで、寒色のネクタイはイタリア製だ。

着替え終えると片手に黒い鞄、もう一方の手に車のキーをあそばせて階段を下りた。

週初めの月曜はメールチェックに時間を要するので、早く出社すると決めている。

リビングに下りると、出勤時間までまだ余裕のある妻がエプロン姿で駆け寄ってきた。

「見てください!」

張りきった顔で差し出されたのは、しいたけの菌床だ。

おが粉と米ぬかを混ぜた培地にしいたけ菌を植えつけたもので、高さ二十センチほどの円柱をしている。

そこから手頃な大きさのしいたけが五本生えていた。

「この菌床で三度目の収穫です。丸い傘が可愛いですよね」

ほんのりと頬を染めた妻が、小動物か幼子を見るように目を細めている。

(しいたけが可愛い?)

その感覚がわからなかったが、妻の笑顔を期待して同意する。

「自分で育てると可愛いな。食べるのが惜しくなる」

「食べますよ。今夜のおかずです」

「可愛いんだろ……?」

「はい。でもこのまま収穫せずにいたら、傘が開ききってぼろぼろになります。せっかく育てたんですから、美味しい時に食べたいです」

(成美は時々予想外の返しをするから面白い)

笑って妻の頭を撫でてから、玄関に行きコートを羽織った。

後ろをついてきた妻が、しばしの別れを惜しむかのようにしきりに話しかける。

「前回収穫したしいたけはバター醤油でソテーしたので、今回は肉詰めにしようと思うんです」

「いいな。上にチーズをのせてくれ」

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