愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「はい!」

革靴を履いたら振り向いて、菌床を大事そうに抱える妻を引き寄せキスをした。

色白の頬がたちまち赤くなる。

「チーズなしでもうまかった。ごちそうさま」

ペロリと唇を舐めてみせると、はにかむ妻が「もうっ」と可愛い文句を言った。

「朝陽さん、いってらっしゃい。頑張りすぎないでくださいね」

「成美もな」

妻が窮屈なマイルールから抜け出した日から二か月ほどが過ぎ、今は一月の冬真っ盛りだ。

寒波到来で昨夜は雪が降ったが、他愛ない会話が絶えない家庭は温かかった。

笑みの名残を口元に浮かべて地下の駐車場に下りた朝陽は、セダンタイプの黒いドイツ車に乗り込む。

車は三台所有しており、これは通勤用だ。

エンジンをかけるとスイッチが切り替わったかのように真顔になり、心が仕事モードになる。

北西へと車を走らせること十五分ほどで、五階建ての社屋前に着いた。

地下駐車場へ繋がるスロープの入口にはパイロンが置いてある。

それを警備員が急いでよけて一礼した。

片手を上げて応えた朝陽はスロープを下り、社屋の出入口に近いいつものスペースに駐車した。

< 180 / 282 >

この作品をシェア

pagetop