愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す

自分でも驚くほどに一途に思い続けていたのを知ったのだ。

執務室のドアを開けた時には、不愉快さはかなり薄れていた。

(成美としいたけの肉詰めを食べるために、さっさと仕事を片づけるか)

あんなに可愛いのに自己評価の低い妻は、自分が夫を助けていると夢にも思うまい。

この戦場で心を穏やかにできるのは、愛妻を想う時だけだった。



十八時四十分、通勤用の鞄に仕事用具をしまい帰り支度を始めた。

役職柄、会食や接待は多いが、その予定がない日はなるべく早く帰るようにしている。

遅くまで残って仕事する者が有能ではない。

限られた時間の中で終らせられる者の方が仕事ができる、というのが朝陽の考え方だ。

黒いコートを羽織り、妻に今から帰るというメッセージを送ろうと携帯電話を手にしたら、電話がかかってきた。

それは母親からで、朝陽の眉間に皺が寄った。

(出たくないが、出なければもっと面倒くさい目に遭うからな)

母からのメールは週に二、三度、電話は月に五回はかかってくる。

これといった用事はなく、寂しさを紛らわせるための連絡だろう。

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