愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
庭に椿が咲いた話や観劇に行った報告を満足するまで聞いてあげたら、しばらくは音沙汰ないが、忙しいからと適当にあしらったり無視したりすればヒステリックになる。

『母親なんて、どうでもいいと思っているんでしょう!』

そう叫ばれたことは数知れずだ。

ため息をついて電話に出る。

「なに?」

『あら、電話できる状況なのね。よかったわ。今日は朝陽にいいお話があるのよ。仕事が終わっているなら帰ってきてちょうだい。お夕食も作ったわ』

「いや、急に言われても。今日は行けない。妻と一緒に夕食を食べる約束をしている」

『私が認めていない以上、あなたは独身よ。必ず今夜中に帰ってきなさい。何時まででも寝ずに待っているから』

最初の明るい声が急降下してワンオクターブも低くなり、電話が切れた。

朝陽は背筋が寒くなり、脅された気分になる。

『無視するなら死ぬわよ』と言われた気がしたのだ。

仕方なく成美に二時間先の帰宅予定時刻を送信し、先に食べていていいと気遣う言葉も添えた。

急いで執務室を出て地下駐車場まで降り、セダンに乗りこむ。

憂鬱な気分で自宅とは逆方向にある実家へと車を走らせた。

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