愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
何度スマホにかけても出ないからと会社にまで電話がかかってきた時もある。

実家に呼び出されるのはしょっちゅうで内心うんざりしていたが、応じなければまた手首を切るかもしれないと恐れた。

結婚してからは、ますます帰りたくない心境だ。

妻と過ごす時間が減るのは惜しく、結婚を頑なに認めない母の態度にも苛立っていた。

(息子を取られた気分で結婚を反対しているんだろう。小さな子供じゃないんだ。いい加減に俺への執着を捨ててくれ)

幹線道路を十分ほど走り、閑静な住宅街の細道を進んで自宅に着いた。

祖父の代に建てられた古い日本家屋で、広い庭付きの平屋だ。

寺院で見かけるような重厚感ある木造の門を開けて、車を乗り入れる。

庭師が定期的に整備している庭は松や椿が植えられ、石灯篭や鯉の泳ぐ小さな池もある。

玄関前に車を停め、玄関の引き戸を開けた。

中はリフォームして住みやすい洋室にしてある。

欄間などは残してあるため和洋折衷の趣で、文明開化の頃に造られたのかと尋ねる来客もいた。

「朝陽さん、おかえりなさいませ」

住み込みの家政婦は田中という四十代の女性だ。

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