愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
思い出せないくらい長い間、帰っていないようだ。
「朝陽が着いたの?」
奥から明るい声がして、母が玄関ホールに現れた。
五十九歳にしては皺が少なくいつもしっかりと化粧を施し、美容には余念がない。
息子の目から評価するのは難しいが、子供の頃に遊びに来た友達に『お前の母さん美人でいいな』と言われたことはある。
いつも姿勢がよく、外出時には和装が多い。
今も辻が花の訪問着を着て、美容室で結い上げてもらったような髪形をしているので、朝陽に電話してくる前まではどこかに出かけていたのだろう。
以前から習いごとをいくつもしており、友人との観劇が好きなようだ。
多趣味なのに、家族に構われないと寂しがるのが困りものだった。
急な呼び出しの文句は言わず、嫌な顔もしないでできるだけ優しく問う。
「なんの話があるんだ?」
「玄関先でする話じゃないわよ。早く上がって。田中さん、朝陽にお夕食を」
「いらないから。とにかく用件を教えてほしい」
プイと顔を背けた母が「早くしなさい」とだけ言って、リビングへ引き返していく。
「朝陽が着いたの?」
奥から明るい声がして、母が玄関ホールに現れた。
五十九歳にしては皺が少なくいつもしっかりと化粧を施し、美容には余念がない。
息子の目から評価するのは難しいが、子供の頃に遊びに来た友達に『お前の母さん美人でいいな』と言われたことはある。
いつも姿勢がよく、外出時には和装が多い。
今も辻が花の訪問着を着て、美容室で結い上げてもらったような髪形をしているので、朝陽に電話してくる前まではどこかに出かけていたのだろう。
以前から習いごとをいくつもしており、友人との観劇が好きなようだ。
多趣味なのに、家族に構われないと寂しがるのが困りものだった。
急な呼び出しの文句は言わず、嫌な顔もしないでできるだけ優しく問う。
「なんの話があるんだ?」
「玄関先でする話じゃないわよ。早く上がって。田中さん、朝陽にお夕食を」
「いらないから。とにかく用件を教えてほしい」
プイと顔を背けた母が「早くしなさい」とだけ言って、リビングへ引き返していく。