愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
このまま帰ってやりたかったが、その後に八つ当たりされる家政婦が気の毒なので仕方なく靴を脱いだ。

困り顔の田中に夕食は食べてきたからいらないと嘘をつき、母親の後を追う。

リビングは元々和室だった部屋を二間繋げてリフォームしており、程よい広さだ。

インテリアとして薪ストーブが置かれ、ビロード張りでアンティーク調のソファセットが部屋の中央にある。

コートを脱がずにふたり掛けソファに腰かけたら、母が数冊の革表紙の薄い本を抱えて隣に座った。

「この中から朝陽がいいと思うお嬢さんを選んでちょうだい」

「は?」

本だと思ったのは見合い写真だった。

ニスが光沢を放つ木目のテーブルの上に、母が五人の女性の写真を並べる。

「お母さん、反省したのよ。朝陽も結婚したい年頃になったのよね。だからお稽古仲間や先生、友達に頼んで紹介してもらったの。皆、ちゃんとしたお宅のお嬢さんよ」

嬉しそうに語る母親に朝陽は眉をしかめた。

成美の存在をないものとして話すからだ。

(あくまで成美を嫁として認めないというのか。なぜそこまで頑ななんだ)

心の中で疑問を投げかけ、自分のせいだと結論を出した。

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