愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
そう頼んで財布を出し、さらに数万円をエプロンのポケットに押し込んで玄関に向かった。

車に乗り込んだ朝陽は、実家からかなり遠ざかってから大きなため息をついた。

「なんで俺ばかりが母さんの面倒を見なければならないんだ」

父と兄に対して呟いた文句である。

成美と結婚してからというもの、自分への執着がさらに強まった気がしている。

(実家に寄ってから帰ると、成美に言わなくてよかったな)

帰宅時刻を伝えただけなので、きっと仕事が長引いていると思うだろう。

母に見合いを勧められた話をすれば不安にさせるだけなので、このことは黙っていようと考えていた。



自宅に着いて玄関を開けると、その音に気づいた妻が玄関まで出迎えてくれた。

「朝陽さん、お帰りなさい。お疲れさまでした」

嬉しそうに微笑む妻は、もこもこした生地の水色のルームウエアを着ている。

メイクを落とした素顔で、髪は少し湿っているようだ。

「ただいま。風呂上り?」

「はい。お先にお風呂をいただいてすみま――」

謝りかけた妻が慌てて口を押えた。

すみませんは禁止というルールを守ったのだ。

(安定の真面目さだな)

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