愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「父と兄は仕事にしか興味がないから母に無関心なんだ。母は家族の愛情に飢えているのだと思う。結婚してから急に呼び出しが多くなったのを考えると、俺まで自分を見捨てて離れていくのではないかと不安なのだろう。兄にはお前も距離を置けばいいと言われたが、それはできない。手首を切って倒れていた母を、見てしまったからな……」

朝陽が苦しそうに謝る。

「迷惑をかけてすまない」

今後も急な呼び出しで帰宅が遅くなったり、予定の変更やキャンセルをお願いしたりする日もあるだろうという見立てからの謝罪だ。

成美は首を横に振り、迷惑には思わないと伝えた。

あの広い屋敷で寂しさに耐える夫の母を想像すると、胸が痛む。

成美へのあたりの強さは、家族からの愛情に飢えているせいなのだろう。

『私を忘れないで』という夫の母の心の叫びが聞こえるような気がして、なんとかしてあげたいと思った。

(私にできることは……)

「お母様の苛立ちを受け止めることはできます。ご迷惑を承知の上で、また会いにいってもいいでしょうか?」

怒りや不満をぶつける相手がいれば、少しは心が晴れるのではないだろうか。

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