愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「朝陽に怒られたんだ。仕事を理由にして無責任なことをするなと。まったくその通りだ。俺は由紀子から逃げていた。申し訳なかった」

目の前で深々と頭を下げた夫に、母親が涙ながらに訴える。

「私は愛されていないと思ってずっと悲しかった。あなたにもっと家に帰ってきてほしいから、居心地よくしないとと思って頑張ったのよ。それが逆に、あなたを帰りにくくさせていたなんて……ごめんなさい」

「由紀子に少しの非もない。すべては俺の心が弱かったせいだ。贅沢だけ与え、嫌われないよう接触を避けていたんだ」

「明憲(あきのり)さん、私は贅沢したいと思っていないわ。ジュエリーはこのネックレスひとつで十分。その代わりにあなたから愛され、必要とされていたい」

ソファからスッと立って向かい合った妻を、朝陽の父親が抱き寄せた。

「愛しているよ。ネックレスを贈った時と少しも変わらず。会社近くのマンションは売却の手続きをした。自宅は由紀子のいるこの家だけにする。もう寂しい思いはさせないと約束しよう」

(夫婦でこの家で暮らすのね、よかった……)

何十年もの寂しさがやっと解消され、夫の母の心が救われたのを感じた。

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