愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す

「いつもは奥も使っているけど、あんなに速いと流れに乗れないからやめとくよ」

「あの若者に、遠慮してゆっくり泳げと言ってやろうか？」

「やめてくれよ。なにかされたら怖いだろ。奥はスピード出していいコースだし、文句は言えない。仕方ないから今日は帰るさ」

チラリと振り向いて残念そうにしている高齢男性を見た成美は、つかつかと奥のコースに向かった。

困っている人を見過ごせない性分なので、自分が青年に声をかけようと思ったのだ。

（おじいさんはなにかされたら怖いと言ったけど、明るい時間で人も多いから心配いらない。話せばきっとわかってもらえる）

平泳ぎで遠ざかる青年は向こうの壁までいくと、背泳ぎでこちらに戻ってくる。

先ほどはクロールで泳いでいたので、個人メドレーの練習をしているかのようだ。

（タイムを伸ばそうとするスイミングクラブならわかるけど、ここはスポーツジム。譲り合って施設を利用すべきだわ。それにしても……きれい。フォームが整っていて、上手に力を抜いた自然な泳ぎ方。それでいてあんなにスピードを出せるなんてすごい。日頃から鍛えているのかな。筋肉のつき方も美しい）