愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
塩素のツンとした匂いとムッとする湿度、高い天井に反響する人の声、濡れた滑り止めの床材の感触。

十年ぶりのプールに心が弾んだ。

(早く泳ぎたい。自由に使えるレーンは……)

八レーンある五十メートルプールは、四レーンが事前申し込みの必要なレッスンで使われており、インストラクターの大きな声が響いている。

生徒は三十人ほどいて、活気にあふれていた。

残りの四レーンが自由遊泳用となっていて、往復するのに二レーンを使うため、実質二コースだ。

口角を上げて近づいた成美は、プールサイドで足を止めて首を傾げた。

(あれ? こっちは混んでいるのに、あっちはひとりしか使っていない)

手前のコースは中高年の利用者、二十人ほどがクロールでゆっくりと泳いでおり、端まで来ると順番待ちで一度立ち上がらなければならない混みようだった。

対して奥のコースを利用しているのは、青年ひとりだ。

人数の不均衡を疑問に思ったら、後ろから初老の男性ふたりの立ち話が聞こえた。

「今日はやけに混んでいるな。これじゃ泳げない」

「奥のコースで泳いだら?」

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