愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
(このお見合いが藤江さんの作戦なら、今さら顔を隠しても意味はない。ご挨拶してから、あの時の失礼をお詫びしないと)

「及川成美です。本日はどうぞよろしくお願いします」

「よろしく。成美さん、そんなに緊張しないでください。ただの食事会だと思えばいいですよ。このホテルは和食が美味しいので、一緒に料理を楽しみましょう」

「は、はい」

(スポーツジムで会ったと気づいていない?)

朝陽の笑みは自然で、なにかを企んでいる様子や怒っている雰囲気は少しもなかった。

今日は振袖でおめかししているので、あの時とは雰囲気が違って同一人物に思えないのかもしれない。

(作戦というのは思い過ごしかも。よかった)

後日冷静になって考えると、かなり失礼な言葉をぶつけてしまったと後悔していたので、謝罪したい気持ちはある。

けれども胸を背中に間違えられたという恥ずかしさまでぶり返しそうで、自分から言いだすのを躊躇した。

(藤江さん、大変申し訳ありませんでした。お詫びを口に出せないことも許してください)

罪悪感がチクリと胸を刺すが、このまま気づかれずにやりすごし、食事をしてすぐに帰ろうと心に決めた。

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