愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「お会いできるのを楽しみにしていました。本日は暑い中、お越しくださいましてありがとうございます」

「こちらこそ、お会いできて光栄です。お話をいただいた時には驚きましたけど、藤江さんはお写真通りの素敵な方ですね。娘にはもったいないお話で恐縮です」

母が挨拶を交わしている間、成美は冷や汗をかいてうつむいていた。

(どうしよう。まだ気づいていないようだけど、顔を上げたらわかるよね。こんなに困る偶然はいらない……偶然? もしかして、このお見合いは藤江さんの作戦だったりして)

成美の失礼発言が許せなくて、謝罪させるために会おうとしたのではないかと考えた。

もしそうなら、どうして大企業の重役が成美にお見合いを申し込んだのかという疑問も解ける。

「成美、あなたからもご挨拶しなさい」

相手の顔を見ようとしない娘の袖を、母が軽く引っ張る。

母はスポーツジムでの一件を知らないので、挨拶は大切だと厳しくしつけてきたつもりなのにと言いたげだ。

どうしようと心の中で繰り返していた成美だったが、膝の上の両手を握りしめると、意を決して顔を上げた。

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