愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
(私に振らないで。思い出されたくないから極力話さないようにしているのに)

「専務さんだと伺っております。お若いのに立派ですわね」

「いえ、立派に務められているかどうか自信はないです。最初は本社で勤務しておりまして、今の会社には専務として入社したのですが、若造の私に上に立たれるのが我慢ならない社員もいました。指示が通らず悩みましたし、社員と口論もしました。今はだいぶマシになりましたが」

「まぁ、そうなんですか。ご苦労されたのですね」

「いえ、苦労とは思っていません。不満を持ちながら黙って仕事をされるより、言動で示してくれた方がいい。話し合いができますから」

話し合いという言葉に興味を引かれ、少しだけ顔を上げて彼を見た。

気取ったところがなく柔和な笑みを口元に浮かべ、穏やかそうな人柄に感じた。

(重役だからと偉そうにしているわけじゃないのね。藤江さんは話し合いを大切にする人)

『話せばきっとわかってもらえる』とよく言っていた父を思い出し、朝陽の考え方に共感して頷いた。

すると彼の視線が成美に向いた。

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