愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「私の話ばかりで失礼しました。成美さんはどのようなお仕事をされているのですか? 事前にお勤め先を教えてもらいましたが、ぜひ具体的な話を聞かせてもらいたい」

「は、はい。私は清掃会社の事務員で、ええと――」

勤めに関して隠すような事情はなく、他の誰かに聞かれたならハキハキと答えただろう。

けれども口数を増やせばスポーツジムでの一件を思い出されそうで、たどたどしくぼそぼそとした話し方になる。

成美らしくないと言いたそうな母に、また袖を引っ張られた。

(きちんと話したくてもできないの。ごめんなさい)

事務仕事の内容を言葉少なに説明してうつむけば、母が焦り顔でフォローする。

「藤江さん、すみません。いつもはしっかり話すんですけど、どうにも緊張が解けないようで。藤江さんのように素敵な方とのお見合いは、娘にとってハードルが高すぎたようです」

(それは否定しないけど、それだけじゃない)

しっかり者の娘だと母は思ってくれているので、その評価を下げそうで残念に感じた。

一方で、これでお見合い終了後にもう一度会いたいとは言われないだろうとホッとした。

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