愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
包容力のありそうな大人の笑みを向けられて、成美の顔に熱が集中した。

照れくささに顔を隠したくなったが、当初の目的を思い出して心を落ち着かせる。

(褒められて気持ちよくなってどうするの。私はお断りされるためにここに来たのに)

気持ちを立て直した成美は背筋を伸ばして真顔を向けると、これまでとは打って変わってはっきりした口調で話す。

「お褒めくださいましてありがとうございます。この振袖は母の勤め先の税理士先生の娘さんから貸していただきました。借金返済中の我が家には振袖を用意する余裕がありませんので」

すると母が残念そうに小さく唸った。

我が家の事情を打ち明け、相手から断ってもらうという相談は事前にしていたのに、なぜがっかりするのだろう。

眉尻の下がった母を気にしていたら、朝陽に明るい声をかけられる。

「そうでしたか。話してくれてありがとう。成美さんは正直ですね。ますます好感が持てます」

「えっ」

(引かないの? まさか、そんなことは……。心の中ではこのお見合いは外れだったと思っているよね?)

胸の内を測りかねている成美に、朝陽がクスリとする。

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