愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
(藤江さんと結婚したら、お母さんを安心させてあげられる。娘に苦労させたという罪悪感も軽くしてあげられそう)

けれどもすぐに無理だと諦めた。

(スポーツジムでの一件がなかったなら私も素敵な出会いだと喜べたかもしれないのに、残念だけどお断りするしかない。でも……藤江さんは気づいていないのよね。それならこのまま初対面のふりしてお付き合いする?)

ズルい考えが浮かんで、慌てて心の中で自分を戒めた。

(なにを考えているのよ。騙したり、嘘をついたりするような悪い人間にはなりたくない。初対面じゃないと正直に話そう。そうすればきっと藤江さんの方から断ってくれる。あんなに失礼な言葉をぶつけてしまったんだもの)

自分の真面目さに反しない結論を出したら、襖が開いて朝陽が戻ってきた。

「お待たせしてすみま――」

その言葉を遮るように、成美ははっきりした声で謝る。

「申し訳ありません」

座椅子の横に膝をずらして深々と頭を下げる。

敷居の手前で足を止めている朝陽も、娘の幸せを期待していた母も驚いていた。

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