愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
タクシーに乗ること自体、随分と久しぶりだが、この車はシートが広く座り心地も抜群で目を見張った。

車種に疎い成美でも、ハイグレードな高級車だとわかる。

「こんなタクシーもあるのね」

揺れの少ない車内で独り言を呟けば、朝陽がサラリと答える。

「よく利用しているんだ。同じ所要時間で同じ場所に到着するにしても、乗り心地がいい方がいいだろう」

「藤江様にはいつも御贔屓にしていただきまして、誠にありがとうございます」

中年の運転手が帽子を取ってお礼を言い、好青年の顔をした朝陽がニコリとする。

「こちらこそ、優先して予約を入れてもらえるから助かっていますよ。今後もよろしくお願いします」

(本当に頻繁に使っているみたい。さすがお金持ちね)

つくづく自分とは住む世界の違う人だと感じ、隣に座っているのが不思議に思える。

チラリと彼を見れば、視線がぶつかって鼓動が跳ねた。

恥ずかしさに目を逸らしても、不愉快そうにせず優しく声をかけてくれる。

「振袖姿もきれいだったけど、その服も素敵だ。可愛い成美さんはなんでも着こなせるんだな」

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