愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「あ、ありがとうございます。母が今日のために買ってくれました」

(わざわざ新調しなくてもと思ったけど、褒めてもらえて嬉しい。お母さんにお礼を言わないと)

喜んでいるのに笑みを返せないのは、緊張しているせいだろう。

胸の高鳴りを抑えるのに苦労していた。

「へぇ、俺とのデートのためなのか。光栄だな。偶然にもこのスーツと色味が似ていて、合わせてコーディネートしたみたいだ。それも嬉しいな」

彼は平然と成美が照れるような言い方をする。

勝手に熱くなる頬を片手で押さえ、返事に困ってうつむいた。

(また思わせぶりなことを。こういうのに慣れているのね。お見合いの時もそうだったし、スマホでも……)

お見合いで連絡先を交換したのは十九日前になる。

その日の夜にメッセージが届き、それは成美が赤面するような内容だった。

【今日は会ってくれてありがとう。ジムでの威勢のいい君も、振袖でおしとやかな君も、どちらも素敵だ。次に会える日が待ち遠しい】

それから三日間、成美に好意を示すようなメッセージが続いて、もしかしたら本気で交際を考えているのかと錯覚しそうになった。

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