愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
歳の差を考えるとおそらく彼は大学生で、どんな接点があったのかと考えながらも、動悸と闘っていた。

(息がかかった耳が熱い。こういうのも上流階級の男性の普通なの? 私は慣れていないからいちいちドキドキして、心臓に悪い)

それから十五分ほどタクシーは走り、商業ビルとオフィスビルが混在する地区の大通りで停車した。

目の前のビルに誘われ、エレベーターで最上階まで上る。

ホテルのような静かな廊下を進めば、フランス語の店名のレストランが現れた。

「ここだよ」

朝陽は軽く指を差すが、成美は立ちすくむ。

入口は落ち着いたデザインのガラス扉で、店構えに格式が高そうな雰囲気があった。

カジュアルフレンチの店なら一度だけ、ピアノコンクールで入賞したお祝いにと両親に連れていってもらったが、本格フレンチは初めてだ。

(このお店の名前、どこかで聞いた気がする。あっ……)

三日前に店長が、結婚二十周年のお祝いにこの店を予約したと話していたのを思い出した。

結婚記念日は三か月も前だったが、ミシュランの星つきで人気のある高級フランス料理店のため、なかなか予約が取れなかったそうだ。

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