愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
横髪を耳にかけられ、強引にイヤリングをつけられる。

耳に触れる彼の指は温かく、端整な顔はすぐ近くにあり、たまらず目をつむった。

数秒間が長く感じ、高鳴る動悸が聞こえてしまわないかと心配したら、やっと離れてくれた。

目を開けると満足げに微笑む彼と視線が合い、また鼓動が跳ねる。

「思った通りよく似合う。きれいだよ。これでなにも心配せず、堂々と入れるだろ? 

君と食事を一緒に楽しみたいんだ」

曇りひとつないガラス扉に映った自分は、職場の更衣室の鏡で見た時より美しく感じた。

場違いな客にはならなそうな気がして心配は解けたが、もらうわけにいかないという頑な真面目さが崩れたわけではない。

困り顔をすると、彼が胃のあたりを押さえて片目をすがめた。

「実は、今朝からなにも食べていないんだ」

午前の会議が長引いたため昼食を取る時間がなく、今日は午後も分刻みのタイムスケジュールだったらしい。

「というわけで空腹で倒れそうだから、イヤリングで押し問答はやめよう。店に入らせてくれ」

おどけたように言って、オーバーアクションでふらついてみせた彼に、成美はクスクスと笑う。

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