愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「高谷さん、お世話になります。今日は篠原シェフはいらっしゃいますか? お父さんの方です」

「大変申し訳ございません。本日は休暇をいただいております」

「いや、いいですよ。球場ですね?」

「お察しの通りです。広島戦だとどうにも血がたぎるようで、一時間ほど前にプレイヤーズTシャツに着替えて出かけてしまいました。『息子も一人前のシェフになったからご安心を』という藤江様への伝言を預かっております」

成美は黙ってふたりの親しげな会話を聞いている。

朝陽はこのレストランの常連で、シェフとも懇意にしているらしい。

予約が取りやすかった理由に納得したが、それだけではないようだ。

「どうぞこちらへ」

案内されたのは内扉の向こうではなく、ロビーから横に伸びる細い通路だった。

角を曲がると、調理音と複数人の会話が聞こえ、美味しそうな香りも漂ってきた。

解放されたドアの向こうは厨房になっていて驚いたら、その前を素通りしてさらに奥へ通される。

突き当りの白いドアをマネージャーが開けると、そこは八畳ほどの個室だ。

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