愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
自分の気持ちがよくわからずモヤモヤしたが突き詰めて考えている暇はなく、メニューを開いた朝陽に問われる。

「苦手な食材はある?」

「ありません」

「それじゃ、シェフのお任せにしよう。お酒は飲める?」

「少しでしたら飲めます」

勤め先の忘年会や送別会で、乾杯用のビールを小さなコップに一杯程度なら飲んだことがある。

それを正直に話した後に、二十六にもなって飲酒経験が少ないのは子供っぽいのではないかと気にした。

(こんな私では、大人な藤江さんに釣り合わないのでは……)

そんな焦りが湧いたが、釣り合う必要はないとすぐに思い直す。

(恋人がいないと聞いてから考えがまとまらない。豪華な個室にそわそわしているせい?)

落ち着かない成美とは対照的に、朝陽は常に自然体でスムーズに注文を決めていく。

「成美さんにもシャンパンを一杯だけ付き合ってほしい。その後はオレンジジュースでどう?」

「はい。それでお願いします」

朝陽が閉じたメニュー表をマネージャーが小脇に抱え、一礼して退室する。

間もなくして見るからに高級そうなシャンパンが運ばれてきて、脚の細いグラスに注がれた。

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