愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
列席者用のベンチには誰も座っておらず、チャペルには聖歌隊とホテルスタッフが数人、優しそうな初老の牧師と、新郎新婦の自分たちがいるだけだ。

ふたりだけで海外挙式しようと決めたのは、彼の家族が理由である。

プロポーズを受けた翌週のデートで、成美は朝陽の両親に挨拶しに行きたいから予定を聞いてほしいと頼んだ。

すると『俺の家族に挨拶はいらない』と言われて驚いた。

『そんなわけにいきません。ご挨拶させてください。あの、もしかして、私との結婚を反対されているんですか?』

『んー……母親だけなんだけど。うまく話をつけられなくてすまない。父と兄にだけ会ってもらおうか』

母親が反対していると聞いて悲しくなったが、それならばなおさら会わなければと成美は考えた。

『話せばきっとわかってもらえる』という父の教えを持ち出して、気乗りしなそうな朝陽を説得した。

その翌週に彼の実家を訪ねたら――。

五十八歳の彼の母親は上品な美人で、やや垂れた目元が朝陽に似ていた。

一見すると優しそうなのに、玄関の中にも入れてもらえず、厳しい言い方をされた。

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