モノクロに君が咲く
俺はおずおずと掴んでいた先生の腕を離して、数歩下がった。すみません、と口籠りながら謝ると、ぽんぽんと小さい子どもにするように頭を撫でられる。
「……?」
「卒業、おめでとう。春永」
「っ、あ、ありがとうございます」
「こんなこと言うのは、あんまり褒められないんだがな。今年に限り、おまえは世界一幸せ者な卒業生だと思うよ。本当に、美術部の部長がおまえでよかった」
この期に及んで、どういう意味だ。
言葉の真意が汲み取れずにその場に立ち尽くす俺を見て、先生は朗らかに笑う。
そして確信を告げることもなく、そのまま「じゃあな」と俺の横を抜けて職員室を出ていってしまった。
呼び止めるほどの気力も残っておらず、眩暈を覚えながらそのうしろ姿を見送る。
握りしめてしまったせいで寄れた手紙を、俺はゆらゆらと見下ろした。
「……鈴」
彼女がいなくなっても色づいたままの世界は、なんとも皮肉でしかない。
でも、それこそが鈴が生きた証なのだと俺は自分に言い聞かせる。
もしも、もう一度。もう一度、彼女に会えるのならば。
──そのとき俺は、同じ選択をできるのだろうか。