ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 背中からすっぽりと包むように抱き締められ温もりが伝わってくる。心臓がドキドキしているのに、不思議と安心する。

「帰るのが遅くなってごめんな」
「そんな……気にしないでください。むしろ私達がお仕事の邪魔になっていませんか?」

 櫂人さんはこの国の未来を左右するような重要な仕事をしているのだ。わかっていたつもりだけど、北山さんの言葉で自分の認識が甘かったと気づいた。私には彼の仕事を手伝うことはできないけれど、せめて邪魔にならないようにしなきゃ。

「もしかして北山に言われたこと、気にしているのか?」
「どうしてそれを」

 櫂人さんには北山さんとのやり取りは話していない。告げ口みたいでフェアじゃない気がしたのだ。もしかしたら櫂人さんがなにか……と思ったら、案の定、仕事の合間に彼女を呼び出したと言う。

「北山から謝罪を言付かったよ。『ごめんなさい。助けてくれてありがとうございました』と」

 いえ、と首を振った。
 厳しい言い方だったけれど知れてよかったと思う面もある。

 胸中でひそかにこれから彼と一緒に歩んでいく覚悟を決めていると、彼がぽつりと言う。

「幻滅しました、と」
「え?」
「拓翔の父親は俺だと告げたら、そう言われた」

 絶句した。振り向いたら彼は苦い笑みを浮かべている。

「結婚もまだなのに子どもはいる、そんな不誠実な人だとは思いませんでした。そう言って白い目で見られたよ。当然だな」
「そんな……」

 彼はなにも知らなかっただけ。知っていて私達を放っておくような人ではない。

 だけど他人の目にはそう映ってしまうのだ。職場でこのことが広まって、彼の立場が悪くなったらどうしよう。私はなにを言われてもいいけれど、櫂人さんが悪者になるのは嫌だ。

「私、北山さんに直接話します。櫂人さんは悪くないって」

 胸の前でぐっと両手を握ると、彼がくすくすと笑う。

「もう、笑いごとじゃないんですよ」 

 じろりと睨んだら、まぶたにちゅっと軽く口づけられた。不意打ちに真っ赤になると、「かわいい」と言ってさらに反対側のまぶたにも口づけてくる。
 
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