ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 私はというと、叔父一家が戻って来るのを機に櫂人さんと暮らし始めた。
 祖父が許してくれたのだ。

 叔父のことは許したのに、櫂人さんを許さないのは道理が通らない。そう祖父は苦い顔で言っていたけれど、本当は櫂人さんが叔父を連れ戻してくれたことに感謝したのだと思う。

 それにしても、櫂人さんはいったいどうやって叔父の居場所をつき止めたのだろう。尋ねても、『人脈には自信があるんだ』と言って微笑むだけで、詳しくは教えてくれなかった。


 時間をかけて彼の隣にようやくたどり着く。

 いつもより硬い表情をした彼が、祖父から私の手を取る。彼は一瞬微笑むと、祭壇に向かって進んだ。

「病めるときも健やかなるときも、喜びのときも悲しみのときも、命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 誓約の言葉が胸にずしりと響く。

『どんなときもそばにいて支え合いたい』

 あの夜、ひそかに胸の中でそう誓ったことがよみがえる。あの誓いは永遠に守れないと思っていた。

「はい、誓います」

 万感の想いに声が震えた。

 櫂人さんと向かい合い、一緒に選んだ指輪を互いの指に通す。白銀のリングに並んだ三粒のダイヤが陽の光にきらきらと輝く。美しさにほうっとため息をついたとき、「誓いのキスを」という言葉が聞こえた。

 ベールが静かに持ち上げられた。肩に手を添えられそっと視線を持ち上げると、ぼやけた視界で彼がまぶしげに目をすがめたように見えた。

 大人の男性の色香をまとった端正な顔がゆっくりと近づいてくる。合わせるようにまぶたを下ろすと、涙がすうっと頬を伝う。

「世界一きれいだ」

 まぶたの向こうからささやきが聞こえた次の瞬間、柔らかな感触が唇に押し当てられた。

 とくんとくんと鼓動が脈を打つ。

 思っていたより長い口づけに体温が上昇しかけたころ、やっと彼の唇が離れていった。
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