ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
すべての儀式を終え、バージンロードを一歩一歩ゆっくりと戻る。今度は彼のエスコートだ。
ふたりで歩むこの道が、未来へと続いていく。
もう二度と離れない。どちらかが永遠の別れを告げるその日まで、ずっとそばにいる。
胸に収まりきれない多幸感が涙となって、ひっきりなしに頬を滑り落ちていく。
チャペルから出るとあちこちから祝福の言葉がかけられる。その中にはグレイ大使の姿もあった。
叔父が戻ってきたことで、大使からの注文は無事に納めることができた。お母様も大変喜んだそうで、大使から直接お礼の電話がかかって来たときは驚いた。以降、何度か注文をいただいている。
「さやか」
絶え間ない祝福の合間をぬって、櫂人さんが顔を寄せてきた。
「二十七歳おめでとう。三人で一緒に幸せになろう」
「ありがとうございます」とはにかんだら、こめかみにキスを落とされた。花びらと一緒にはやし立てる声が降ってきて、頬がじわっと熱くなる。
近頃の彼は甘さがどんどん増している。
人前でも腰を抱いたり髪を撫でたりはするし、頬へのキスくらいならさらりとやってのける。
大抵拓翔がパパと同じことをしたがって、三人でじゃれ合うような感じで落ち着くのだが、私ひとりが赤くなったり焦ったりで忙しいのはほんの少し悔しい気もする。
私だってたまには櫂人さんを驚かせてみたい。
かかとを上げて彼の耳に口を近づけた。
「違います、〝四人〟です」
「え?」
「次の春には、拓翔はお兄ちゃんになるみたいです」
くっきりとした二重まぶたが見る見る大きく見開かれていく。
「本当に?」
しばらくしてからやっとそう言った彼に、笑顔でうなずく。その途端、ぎゅっと抱きしめられた。
「ありがとう」
心なしか彼の声が震えていて、胸がじんわりと熱くなった。
「ままぁ! ぱぱぁ!」
駆け寄って来た拓翔を櫂人さんが抱き上げる。
「さやか、愛してる」
「たっくんもー!」
ふたりの笑顔がそっくりで、言葉にならないほどの幸せが胸に満ちる。
「わたしも愛しています」
拓翔がこちらに身を乗り出してきた次の瞬間、両側から頬に口づけられた。わっと歓声が上がる。
色とりどりの花びらと祝福の声が降り注ぐ中、私達はゆっくりと歩き始めた。
【おわり】