紅葉踏み分け、君思ふ
わたしはそぉっと窓に耳を当てる。

「おい、本気ながか?薩摩と長州を組ませるっていうのは」

そう言っているのは黒い髪を撫で付けている男。

「当たり前だ。中岡だってそう思うやお?薩摩と長州が組めば幕府を倒せる力あるはずだ」

静かに答える髪を逆立てた男。

(こっちが坂本龍馬。もう一人は、中岡慎太郎、か)

事前の情報収集が終わったしこのまま盗み聞きもするだけのももったいない。

(うーん、どう登場しようか)

考えている間にも二人の会話は続く。

「でもよぉ、犬猿の仲の二藩をどうくっつけるのさ・・・」

「ほりゃあまだ決まってな・・・」

(ん?)

急に坂本龍馬さんの声が途切れる。不思議に思って耳を窓にくっつけようとした途端、ガラッと窓が空く。

「ひゃっ⁉︎」

窓に体重をかけていたからわたしは部屋の中に転がり落ちてしまう。

「なっ⁉︎女子⁉︎」

(あの妙な間は、坂本龍馬さんがわたしに気づいたから・・・!)

起きあがろうとするとカチっという音とともに首に刃を当てられる。

「おんし、誰だ?」

「え、あ・・・」

(中岡さん、本気だ・・・)

「ほら、はよぅ言え。殺されたいか」

中岡さんが少し刃をスライドさせる。

(ちょ、やばい・・・!)

「はい!会津藩お預かり壬生浪士組隊士本宮かえでです!」

「何?会津藩・・・!」

思わず本当の事を言ってしまった。わたしの言葉に二人の目に一層殺気が宿る。

「違います違います!貴方たちを殺しにきたわけじゃありませんから!」

慌てて手を振りながら弁解するが二人は全く聞く耳を持たない。

「会津藩お預かりと聞いて、信じれるか!」

(まぁ、流石にそう思うよね・・・どうしたら・・・あ!)

「でも、本当にお話に来たんだもん。信じられないなら刀、預けるよ」

わたしはポイっと紅葉を坂本さんに投げる。


「おい!刀をこがな簡単に預けるな!」

紅葉をだきながら中岡さんが叫ぶのを耳を塞いで回避。

「だって、そうでもしないとと信じてもらえないじゃない」

「まぁ、そうけんど・・・」

言い淀む二人。わたしはさらに言葉を叩き込む。

「あと、先に言っておくけど、わたしもあなたと同じように幕府はもうやっていけないと思ってるけど?」

「は・・・?」

「だって、アメリカに対してあんな弱腰外交。大老の暗殺も未然に防げない。そんな政治体制がいつまでも続くと思ってるわけ?」

腕を組むながら言うと数秒の、間。

(あれ?わたし・・・説得失敗?)

瞬間、坂本さんが大声で笑い始める。

(え・・・?)

「はははは!気に入った!こりゃあー返すよ。おんしの話も聞こうやか」

(み、認めてもらえた・・・!)

「じゃあお言葉に甘えて。わたしも、あなたの言う通り、薩摩と長州、この二藩が手を組むことが重要だと思います・・・まぁ、できないのが現状だけど」

首をすくめながら言うとコクコクと坂本さんと中岡さんが頷く。

「そうだな。この二藩の国力は凄まじい」

「それと薩長は外国には勝てっこないと知ってますしね」

「そうながか?」

(あ!そっか!まだ薩英戦争と下関戦争やってなかったんだった!)

「あ、いえ、想像ですよ!薩摩はきっとイギリスから生麦事件の報復にやってくるろうし、長州もこのまま突っ走っていけば必ず外国とぶつかるだろうし」

慌てて言うと納得したように坂本さんが頷く。

「・・・確かに」

「そこで。坂本さん、個人的にわたしと協力しませんか?」

(ここからが勝負・・・!)

「・・・!おんし、どこでおらの名前を・・・!」

「ふふ、乙女の秘密ってことで。で協力してくれますか?」

未来から来た事をはぐらかして返事を急かす。

「見返りは?」

(うーん、っとね)

「薩長を結びつける案。それと最新の武器の設計図」

「乗った!」

(え?早っ・・・!)

そう思ったのはわたしだけではないみたいで中岡さんも驚いたように坂本さんを凝視している。

「え?そんな簡単に決めていいの?」

「しょうえいしょうえい!で、おらは何をすればしょうえいんだ?」

「えっと・・・鉄砲の今の性能を知りたいきす。これに書かれてることを確かめてくれませんか?」

「了解!他にゃ?」

「資金調達をしたいんです、壬生浪士組の。わたしも結構持ってるから出せなくはないけど・・・出所がわからんお金はできるだけ減らしておきたいんです」

(わたしの能力を使えば多分・・・五、六百両ぐらいは用意できると思うけど・・・ね)

「・・・分かった。紹介状をだそう。そうすればニ、三百両ばあなら出してくれるはずだ」

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

(坂本さん、太っ腹!)
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