奈落の果てで、笑った君を。
「へえ~、あれが徳川 家茂かー。なんか思ってたより小さかったね」
「こら早乃助。まだ家茂公は城内にいらっしゃるのですよ」
「でも帰りはこっち出口じゃないんでしょう?」
「だとしても。最後まで気を緩めてはなりません」
「はーい」
ここまで只三郎が警戒しているところも珍しい。
尚晴から教えてもらったのだが、只三郎は小太刀(こだち)の名人。
長い棒以上に短い棒を扱うことが誰よりも優れているんだと。
そんな彼でも気を抜けない今日のお仕事は、只三郎にとっても特別なものみたいだ。
なにも……感じなかった。
徳川家の者を見ても、わたしの家族だとは思えず、ずっと不思議な感覚が流れていた。
「でもこんなこと言うのは馬鹿げてるけど……朱花にちょっと似てませんでした?」
ドクンと、心臓が跳ねた。
ピクリと眉がつり上がった只三郎、放った本人に目を向ける尚晴。