奈落の果てで、笑った君を。




人の思想だって同じだ。

言葉から行動へと変わるように、良くも悪くも絶対的なものなど無い。



「どうして世はむじょ───、わっ」



こつんっと、額(ひたい)を軽く突く。

「今日はここまでだ」と言った若き青年は、決してこの少女の兄というわけでも親というわけでもなかった。


ただ、拾ったのは確か。


約半年前。
出会ったのは元治元年、12月のこと。



「尚晴!今日のご飯は何かなあ」



少女は鼻歌を口ずさみながら、くいっと隣を歩く男の袖を引いた。



「今日は朱花(あすか)の好物を用意すると、今井さんは言っていた」


「やった!あれ、あのね、おとーふにオミソが乗ったやつ!」


「味噌田楽か」


「それ!」



穢(けが)れを知らぬ、純粋無垢。

という言葉があるとするなら、この子に当てはまるのだろうと男は思った。


残酷なほど、あわれなほど、真っ白だ。



< 2 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop