奈落の果てで、笑った君を。




『それは何をするものなの?どうしておれに向けてくるの?そうすると、どうなるの?』



刀を向けられているというのに、首を傾けてはずっと問いかけ続けていた。


人生の終わりを前にした少女は。

己のことを“俺”と言い、怯えることもせず、最期の最後まで『どうして?』を繰り返していた。


その状況おろか、自身の性別まで分かっていなかったのだ。


あれは不気味だった。

なんとも不気味で、端で見ているこちら側に死というものを分からなくさせるほど。


そのときの表情は、今のように煌めきに溢れ、純粋無垢に、屈託なく輝かせていたから。



「尚晴!ぼくね、また新しい歌を覚えたよ!只三郎(たださぶろう)に教えてもらったの」


「ぼく、ではない。お前は女だ」


「あっ、おれ!」


「違う。わたし、だ」


「ふふっ。わたし!」



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