奈落の果てで、笑った君を。




みんな、みんな、どんどん進んで行っちゃうね。


悲しいわけじゃない。
苦しいわけでもない。

そういう気持ちがまだ、よく分からない。


だから自然なままポツリとつぶやくと、尚晴は風車を手にするわたしの隣に寄ってきた。



「変わっている。日々いろんなものを見て、いろんなことを知ってきている」


「でもシュッとしてないし、シワだって増えてないよ?」


「…ゆっくり成長しているだけだ。と、朱花は前に自分で言っていただろう」


「あっ、そうだった!」



人より成長速度がゆっくりなだけ。

ただ、それだけ。
わたしもみんなと同じ場所へ最後は行ける。


そっと、頬が撫でられた。


暑い夏に触れられたときはひんやり気持ちよくて、冬の季節の今日はふわっと温かい。



「尚晴だいすきっ」


「っ、!」



ぎゅうっと抱きつく。

こうしてくっつくと身体だけじゃなく、心が温かくなることを知った。


そしてわたし以上に熱くなってゆく尚晴の身体は、耳まで真っ赤だ。



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