奈落の果てで、笑った君を。




「……苦しかったら…言ってくれ」



なにを?と返事をする前に、わたしの背中に回されていた腕。

微かに震えていて、力加減に迷っている気持ちが伝わってきて、嬉しくなってわたしも抱きしめ返す。



「尚晴っ、しょうせいっ」



名前を呼ばれることよりも、本当は名前を呼ぶことのほうが好きだったりする。



「尚と晴で尚晴!」


「ふっ、…そうだな」



ずっと、ずっと一緒にいたい。

そんな気持ちも最初のときより大きくなった。


70年以上を生きてきたわたしが迎える、2度目の冬。


今年も雪が降ったら一緒に遊ぼう。
また一緒に桂を倒そう。

こうして迎える冬を、これからもみんなで過ごすの。


────この場所で、ずっと。



「只三郎、みんなはどこへ行ったの?」


「大晦日だからね。家族と一緒に正月を過ごすために帰省しに行ったのですよ」


「きせい?」


「…生まれ育った故郷へ帰る、ということです」



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