奈落の果てで、笑った君を。




「様子はどうかな忽那くん。手拭い、すぐ乾いてしまうんじゃないかい?」


「あ、すみません今井(いまい)さん」



コトン───、何かがそばに置かれた音。

ちゃぷん───、何かが水を弾いた音。



「だいぶ熱は引いてきたようなんですが、ただ呼吸が」


「ああ…、確かに苦しそうだね。ちょっとお粥を作ってくるよ」


「ありがとうございます」



あつい、つめたい。
ふかふかする、あったかい。

しょうせー、しょうせい、尚晴。



「───…しょう…せい…」



うっすらと開いた目。

ぼやける視界がだんだんとはっきり見えてくると、いちばん最初に映し出された男がひとり。



「…まだ辛いだろう。もう少し眠るといい」



昨日見たときとは、また違って見える。

そんな目をしていたんだ、そんな口をしていたんだ、そんな着物を着て、そんな声をしていたんだ。



< 47 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop