奈落の果てで、笑った君を。
「俺さー、今日巡察で斎藤 一(さいとう はじめ)とちょっとだけ交えちゃった」
だが、早乃助さんが呑気に放った言葉に不覚にも気を取られてしまった。
「…斬ったんですか」
「いいや。だけど危なかったな」
「なら斬られましたか」
「だったら俺はどうなってんのさ。これ幽霊?亡霊?怖すぎー」
斎藤 一は、新撰組のなかでも最強と謳(うた)われる左利きの剣豪だ。
深く関わったことはないが、その剣使いの評判だけは嫌でも耳に入ってくる。
そしてこの男が俺にそんな話をしてきたのは、俺も見廻組内で一目置かれる剣の腕を持っているからだろう。
だから一人部屋が用意され、入隊してから少しばかり優遇されたことで組内では嫌われてもいる俺だった。
「さすがは剣しかない新撰組さんの男は違うよねー」
「そもそも左利きの剣士なんて俺は認めないけど」と、皮肉いっぱいに吐き捨てては湯を顔に弾く桂 早乃助。