見つけたダイヤは最後の恋~溺愛は永遠の恋人だけ~
気付いたら駅が近いのか、少し賑やかな街並みが見えてきた。

…どこの駅かはわからないけど。


俯いてた顔を少し上げてきょろきょろと辺りを伺う。

漫画喫茶でもあれば朝まで時間潰せるけど、近くにあるかな…
まぁ…見つけるまで歩けばいいか…


泣き腫らした目が気になってまた少し俯いて歩いていたら、視界にぴらっと紙切れが入ってきた。

…チラシ…?

顔を上げると、私よりも歳上っぽいお兄さんがはつらつとした笑顔で「お姉さん、スポーツクラブって興味あります?」と聞いてきた。

え?夜も遅いこの時間に…スポーツクラブの勧誘?
都会はこんな時間までやってるの?
本当に?怪しくない?
ていうか私はこっちの人間じゃないし。

だから…

「いえ、結構です」

そう言って、その人を避けて行こうとしたんだけど。

「あっ、あの!」

その人は私の前に立ちはだかった。

…足を止めざるをえなくなった私は、その人を睨むように見上げた。

「…何ですか?」

自分の命を惜しいと思わない今の私には怖いものはない。
例え相手が怖い人達でも睨んでいただろう。

私のその顔つきに少したじろいだお兄さんだったが、また笑顔で話しかけてきた。

「お姉さん、すごく素敵だから、少し運動したらもっと綺麗なスタイルになりそうだな、って」


体型のことは……今の私には禁句に近い。


えぇ、どうせ私は豚ですよ!
でもね、好きで豚になった訳じゃないんです!

病気して…医者にもっと太れって言われたんです……!

…どうしようも…ないんです……!


声には出さず、頭の中で怒鳴っていたら、お兄さんがオロオロし始めた。

「お姉さん……大丈夫…?」


「っふ…………っく……」


私は歩道のど真ん中で、お兄さんを睨みながら…涙を流し続けていた。


それに気付いて、今更ながら両手で顔を覆う。

私…何やってるんだろう……
何も悪くないこの人に八つ当たりするなんて…


「す…みませ…ん……ごめんなさ…」


「ごめん」

その声が聞こえた時には既に、私はお兄さんの腕の中にいた。


え……何?

抱き締められてる…?


「ごめんね…何か…嫌なこと思い出させちゃったかな…」

「いっ、いえ…何でも……あの、ごめんなさい……」

早くここから逃げたい。
何も思い出したくない。

腕の中から抜け出ようとしたその時…


「俺でよければ…聞くよ」


そのお兄さんが言った。


その時ふと〝旅の恥は掻き捨て〞という言葉が頭をよぎった。


あぁ…それもいいかもしれない。
知らない人に全部ぶちまけてみるのも。

ただ、それが吉と出るか凶と出るかはわからない。
もしかしたら…もっと心を抉られるかもしれない。


でも、生きる気力を失くしていた私の心が…動こうとしている。



「…じゃあ……あの…聞いていただけますか?」

そう答えると、お兄さんの腕の力が緩くなったから、一歩下がってお兄さんを見た。


「もちろんいいよ。全部しっかりと受け止めるから」

優しく笑うお兄さんにちょっと安心しながら、頬を濡らす涙をハンカチで拭う。

「あ、少し待っててもらっていい?店のスタッフに帰るって言ってくるから」

え?帰る?
「えっ、いえ、そこまでしてもらわなくても…」

「いや、こんなに泣くくらいなんだからさ、しっかりゆっくり聞いてやんなきゃ。ね?」

「はい……すみません……」

何だかくだらない話に付き合わせるのが申し訳なくなってきて…気付いたら涙も止まってた。
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