捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?



 縋り付くように抱き着くと、一つ大きな溜め息を零したクラデスにごめんなさいと呟くしかない。

 嫌われたらどうしようと不安な気持ちが滲むと、クラデスがそっと私の顔を覗き込んできた。


「今回はここで我慢……いや許してあげる代わりに、一つ質問に答えてくれる?」


 今にもまた喰らい付いてきそうなクラデスに、慌てて首を縦に振る。

 これ以上は身も、心も持ちそうにない。

 
「そうやって煽るけど、その場面を書くための経験として、他の男と何かしてないよね?」


「……え?」


「マージュの小説だよ。あまりそう言った描写はないけど、極僅かなそういう場面で小説だっていうのにすごく嫉妬してたんだ。もしかしたら、僕以外の他の男が関わっているのかなって……」


 あれだけ火照っていたはずの体が、一瞬にして氷のように冷たくなっていくのが分かる。

 冷や汗が背中につぅっと走り、真っ直ぐ見つめてくるクラデスの視線が妙に痛い。


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