愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~

浮ついた貴公子

「ほらっ、見て!エルマー様よ!!」
「今日もカッコいいわね~」
「あ、こっち見てくれたわ。手を振らなくちゃ!」

真昼間だというのに、
王城内には女性たちの黄色い歓声が響き渡る。
その歓声を向けられているのが、
ユリウス国王の第一秘書を務めるエルマー・フォン・シュトラウスだ。
エルマーはそんな女の子たちの態度には慣れたもので、
ニコリと愛想よく微笑むと手を振ってあげた。

以前ならこんなことはなかった。
エルマーが女の子たちから熱い視線を浴びるようになったのは
つい最近のことだ。
この国の宰相を務めていた祖父のヨーゼフが引退し、
エルマーがユリウスの第一秘書を務めるようになってからのこと。
それまでも祖父のサポートをして仕事を学んでいたが、
裏方ばかりの仕事だったので目立つ存在ではなかったのだ。
エルマーは国王に負けず劣らずの長身で、
くせ毛の栗毛の髪と人懐っこい笑顔は人に親しみやすさを感じさせ、
瞬く間に女性たちの心を捉えた。

シュトラウス家はもともと伯爵の位を賜っていたが、
祖父の長年の王家への忠誠により、公爵へと格上げされたことも大きい。
先の戦争でシュヴァルツ公爵家など反国王側の貴族がお家取り潰しにあったこともあって、
シュトラウス家は国内の最高位貴族家門にまで上り詰めたのだ。
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