さくらの記憶
屋敷の中を、1部屋ずつ掃除していくと、それだけで午前中は終わってしまう。

「ふう、本当に広いなあ。ちょっとしたホテルみたいよね」

最後にさくらは、1階のリビングに掃除機をかける。

ニ面採光のリビングは、キラキラと明るい日射しがたっぷり降り注ぎ、とても気持ちがいい。

さくらは、壁一面の窓を大きく開けて深呼吸した。

今日も見事な桜の木が、空に美しく映える。

ウッドデッキから外に出たさくらは、階段を下りて桜の木に近づいた。

両手で幹に触れると、目を閉じて耳を澄ませる。

(尊さん、はなさん。私は、お二人の血を引いているの?)

そっと心の中で語りかける。

やがて二人が現れると、笑顔で頷いた。

『ええ。あなたは私達の娘の血を受け継いでいるわ』

(じゃあ、北斗さんは、息子さんの方?)

『そうよ。私達、ずっとずっと見守ってきたの。何人もの子孫を。でも、こんなふうに話が出来るのは、さくら、あなただけよ』

(それは、なぜ?)

『なぜなのかは、分からない。でもあなたは、人一倍想いが強いのだと思う。そして、純粋で真っ直ぐな心の持ち主よ。だから私の声が聞こえて、私からの力も受け止めてくれた。とても嬉しかったわ』

そう言って、はなはにっこり微笑む。

『だが、気をつけてくれ』

いつもは黙っている尊が、珍しく口を開く。

『君がここに導かれたのは、やはり何かの危険が迫っているからだ。君の力が必要となる、何かが起こるはずだ。どうか、くれぐれも用心してくれ』

さくらは、キュッと口元を引き締めて頷いた。

その時だった。

「あの…」

ふいに後ろから声をかけられ、さくらはハッとして木から離れる。

振り返ると、昨日の僧侶が袈裟姿で立っていた。
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