悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 バスティア王国へは街道を通らず、狩人の格好をして山道を歩いた。コンラッド辺境伯は帝国との国境を守っているので、最短距離で領地へと向かう。道なき道を進み、息を潜めながら進んでいった。

 フレッドの手を借りながら、沢を渡り岩山を登って、やっと国境を越えたのは出発から一週間が過ぎていた。

 以前帝国へ向かった時は馬車の移動だったけど、途中でこまめに宿を取りながら進んでいたので今回の方が早く着いた。それなのにフレッドは、悲しそうに私を見つめている。

「はあ……ユーリの美しい髪が……」
「フレッド、仕方ないわ。邪魔だったんだもの」
「だからってそんなにバッサリ切らなくてもよかったのに……」

 山道を歩いてすぐに長い髪が邪魔だと思い、肩の上でバッサリと切り落としたのだ。この世界では貴族令嬢は長い髪がほとんどなので、フレッドは最初言葉にならないほど驚いていた。地面に落ちた髪をひと房拾い上げ「これだけ俺にくれ」というので頷いた。百合の時はずっとボブだったので、これでも長い方なんだけど。

 気を取り直して、山を下りて街道に出て南に半日歩けばコンラッド領に入る。フードをかぶってなるべく目立たないように足を進めた。時折馬車が通るけれど、薄汚れたローブを羽織る私たちには目もくれない。

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