悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 そうして、ついに準備を終えたユーリは、フランセル公爵の執務室へと向かった。
 屋敷の中では護衛は必要ないというが、俺が離れていたくないから護衛の立場を使ってそばにいるのだ。それを申し訳なさそうにしているユーリがまたかわいい。

 普段はクールな美人が眉尻を下げて困ったように微笑んで、なんでこんなに愛らしいのかと密かに悶えている。本当にあのクズ王太子は見る目がないし、あれの婚約者などもったいない。

 それなのにユーリの部屋へ戻ると、突然こんなことを言われた。

「ねえ、フレッド。貴方、恋人はいるかしら?」
「は!? 恋人なんていません!!」

 思わず大声を出してしまった。ユーリはただでさえ事業の立ち上げで忙しくしていて、俺のことなんでまったく眼中にないのだ。万が一にも変な誤解をされたら、ますます俺を見てくれなくなる。

「じゃあ、問題ないわね。私、この国を出て行くことにしたの。もし護衛としてついてくるように、お父様から打診を受け——」
「行きます。俺はユーリ様の専属護衛です。俺が行かなくて誰が行くというのですか。今すぐフランセル公爵に交渉してきます……!」

 やっとだ、やっとこの時が来た。このチャンスを絶対にものにすると決意し、俺はフランセル公爵の執務室の扉を開いた。

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