悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 感情をなくしたユーリの表情を見て、胸が切り刻まれるようだった。

 ダメだ。このままではユーリを守りきれない。
 護衛でしかない俺は、ユーリがこんな男に振り回されるのを見ていることしかできない。


 俺はユーリの笑顔を守りたい。


 ユーリを傷つけるすべてのものから、守りたい。
 願わくは——この俺の手で。


 クリストファーを家から追い出し、外で控えている皇族の影に声をかけた。

「リンク、いるか」
「はい。ここに」

 俺についている影が、音もなく姿を現した。黒装束に身を包み、まるで闇の化身のようだがこれが彼らの正装だ。特殊な訓練を受けているので、影の中を自由自在に移動できる能力を持っている。

「ユーリを城へ連れていく。馬車を頼む」
「御意」

 短く答えてリンクは影と同化して姿を消した。
 俺はもう気持ちを隠さない。ユーリに求婚して、彼女を俺のものにする。

 それから皇城に連れていき、すべてを話そう。ミカエラにも会わせたい。たとえ俺の気持ちに応えてくれなくても、皇太子として采配できるならユーリを守ることができる。

 もしそれで俺が嫌われたとしても、ユーリが笑顔でいられるならそれでいい。
 ——そう、思った。


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