月へとのばす指

 確かに、噂で聞いていたように、なかなかのイケメンではある。背も高い方だと思うし、大手グループ企業の御曹司ともなれば、女性の大半は多かれ少なかれ、彼を見かければときめくだろう。

 もっとも、中身がどうなのかは履歴書からはよくわからないが。有名大学に現役入学、卒業後はこの会社に入り二年間営業部に所属。入社三年目にアメリカ支社へと転属、あちらでも営業を担当し、将来を見越して課長補佐を一年努めた。英会話が得意らしく、仕事でもそこそこの実績を上げたらしい。

 そしてこの春、社長のお声掛かりで帰国し、営業一課の次長に就任したというわけである。将来の社長候補としては悪くない経歴なのだろうが、そこから人柄は読みとれない。
 今時というか、履歴書や職務経歴書は全部ワープロソフトで書かれていて、筆跡から推測することもできなかった。

(まあ、悪い人には見えなかったけど)

 イケメンではあるが、やや童顔気味で、聞いていた年齢よりは若く見えなくもなかった。知らない人が見れば、今年の新入社員だと言っても通るかもしれない。

 おそらく当人は、そんなことを言われたら内心ふてくされるだろう。ひょっとしたら顔にも出すかもしれない。先ほど見た、なにやら不思議そうな表情をしてこちらを見ていた彼には、そんな幼さが見受けられた。

 ふふ、と思わず唯花は忍び笑いをする。二年ぶりの本社で彼が、果たしてうまくやっていけるのだろうかと、身内みたいな心配をしてしまったせいだ。実際問題、あの若さで次長待遇だと、周りが気を遣ったり反発したりして、スムーズにはいかないのではないか。そんなふうに思う。

 願わくば当人が、辛抱強い性質だと良いのだけど。年上の無意識でか別の要因でか、唯花にはまた、久樹のことを身内に近い気持ちで案じる気持ちがわき上がった。



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