白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

(本当は誰よりも大事して、どうにかしてあの場所から巣立たせたい。その為にはまず俺自身を信用してもらい――そう思っていたのに、あの男が囃すから。ああ、こんなことならもっと本気で口説いておけばよかった。……今頃は恐らく高位の人外に保護されているだろう)

 藤堂は溜息を落とし、この土地への執着を手放す。高位の人外が干渉するのであれば、自分のような存在が太刀打ちできるわけがないと最初から分かっている。
 人間社会側の近い人外の子孫は、人外界隈での力はかなり低い。特に遙か昔のご先祖様の末裔であれば殆ど人間と変わらないだろう。

「――っ、小晴」
(ん、あの男は確か……)

 ボストンバッグを雪の上に落としたまま店の前で固まった男がいた。
 真っ黒な髪に真っ赤な瞳、精悍な顔立ちの青年、小晴の幼馴染みでもある黒鉄浅緋だった。

(これ以上、深入りすれば高位の人外に目を付けられる。……潮時、か。だがまあ、今回の事後処理や店の権利関係は高位の人外に、状況説明と引き継ぎぐらいはしておかないとな)

 藤堂は自分の指針を決め、そそくさとその場を離れた。
 対して浅緋は両手の拳を強く握りしめ、呆然と佇んだままだ。

「やっと帰ってきたのに、お前はどこに居るんだよ? ……小晴」

 震えた声で呟いた言葉は、野次馬たちの声にかき消されていった。
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