白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

第3章

 
 ○武家屋敷・客間(昼)

 それは身支度を調えたあと、「今後の話などを詰めるため」と言って用意された客間だったのだが、目が眩むような国宝が座卓テーブルに雑に置かれていたのだ。
 私が部屋に入るなり、紫苑は目を輝かせて微笑んだ。眩しいほど美しい。これから私の心臓は保つのだろうか。

「小晴」

 私の手をそっと掴み、座卓テーブルの上座に座らせようとする。背もたれのある座椅子は黒塗りの良いものだとわかった。少し大きめなのはまだ良いとしても、なぜ一人分なのだろうか。

「小晴が可愛い」
「その前に、どうして私は紫苑さ――紫苑の膝に座っているのでしょう。距離感が可笑しいのですが……」
「小晴と離れたくない」
「駄々っ子みたいですね」

 大事なヌイグルミを手放すものかと、意固地になっているよう見えて何だか可笑しかった。
 外見は文句なしのイケメンで色香もある人なのに、言動は六歳児に近い。語彙力も同じくらいに乏しいと思う。

「それでも今は小晴と離れたくない」
「どうして?」
「気付いたら居なくなりそうな儚さがある。……私が触れて砕けて消えないのも、死なないのも小晴だけだから、離れたくない」
「(さらっと怖いことを……)どうして私は大丈夫なのでしょう」
「小晴が私に飴をくれたから」
「……基準はそこなのですね」
「小晴の作った物を食べたことで縁の繋がりができたからだと思うが、一番は小晴の魂と相性が良かったのもあるかもしれない」
(愛情表現以外は普通に喋れるのはなぜ?)

 この神様はどうやらかなりの寂しがり屋のようだ。それだけ今までに対等に話す存在が居なかったからなのだろうか。神様の生態がちっともわかっていないので想像でしかないが。

 ただひとりぼっちで、寂しがり屋なのは私もそうだと自覚する。だからだろうか。チリチリと胸が痛むのを誤魔化すように私は抵抗をやめた。
 それを紫苑は肯定的に捉えたようで私に擦り寄る。子供っぽい、幼稚に見えるかもしれないが純粋に好意を伝えようとするところや、甘え上手なところが酷く羨ましく思う。

(いや、でも私がこんな綺麗な人にいきなり甘えるなんて無理無理無理! ハードルが高すぎる!)

 そこで人に甘えるってどんな風にすればいいのか、わからないことに気付いた。頼れる人がいなくなってしまったから――。
 新しい縁も上手くできずに空回って、挙げ句の果てに騙されそうになるなんて笑えない。そんな感じで落ち込んでいると、ちゅっ、と頬に温かいものが触れキスされたことに気付く。
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